海はあちらですか

読んだ本のこと、仕事のこと、ふと思ったことを思うままに書いてみたいと思います。自分の記録と整理のために。

【読書感想】失われた我々の内なる細菌

すっごくおもしろい本だった!

これ。「失われゆく、我々の内なる細菌」

腸内細菌が自閉症と関係している、とか近頃細菌の話をちょいちょい聞くので興味を持って読んでみることにした。

 

失われてゆく、我々の内なる細菌

失われてゆく、我々の内なる細菌

 

 

ざくっと言うと、ピロリ菌を主な研究対象にして人間と細菌の関係を研究している人の書いた本で、人間と細菌の共生関係の複雑さは今わかり始めたばかりだから、抗生物質などで不用意に殺してしまうことのリスクをもう少し意識した方がいいかも、っていう本。

 

その話の過程で事例として紹介される、人間と細菌の共生関係の複雑さと面白さ!一人の人間を取り巻く細菌叢ははマイクロバイオームと呼ばれて、3歳ころまでに決定され大人になっても維持されるそうで、このマイクロバイオームというものがどれほど人間個人に影響を及ぼしているかという話。

 

細菌は何十億年も昔、人間が現れるはるか昔から地球上に存在し、また現在においても地球上の生物種の数でいえばその大半が細菌である。量的にはたとえば海洋生物量の50~90%が細菌だそうだ。

 

人間の体にも多くの細菌が住んでいる。重量にして1.3キロ、細胞数で言えば人間自身の細胞の数の3倍にもなる。例えば大腸では内容物の1ミリリットルに地球上の全人口よりも多くの細菌が住んでいる。この数にも驚きなのだけど、この本で本当に驚いたのは、細菌が人間の体に住んでいる、という時に、私は住まわしている、という感覚を無自覚に持っていたのだけど、そうではないということ。人間にとって必須な機能のかなり多くを細菌が担っていて、細菌なしには生きられないほど、相互に依存的な関係にあるということ。

 

例えば胃がんの原因言われるピロリ菌は、確かに胃がん発生とは関係があるのだけど、一方で食道がんの発生やぜんそくや花粉症などのアレルギー反応には抑制的な働きをしている可能性があったり。また妊婦さんが栄養吸収量が増えて体重が増えるのも人間自身の出したホルモンだけじゃなく、腸内細菌の影響がありそうだったり。

 

つまり細菌も宿主が死んでしまうと困るし、世代が途切れると困るからあらゆる方法で人間の生命と種を維持するように活動している。人間は彼らを活用して生きている。

 

この本を読むと、健康というのは私自身が私だと思っている体だけじゃなく、まったく意識していなかった私に独特の細菌集団まで含めて、それらが健康であってはじめて私の健康なんだと思えてくる。

 

そこで抗生物質の問題が出てくる。抗生物質はもちろん人間を守ることにものすごく大きく寄与してきた。けど人間は細菌のことをまだほとんど知らないから、むやみに使って殺すことで、どんな弊害が出るかも当然まだ知らない。

 

アレルギーや生活習慣病の増加の背景にも現代人が抗生物質により細菌を失ったことが影響している可能性があるらしい。さらには最近の日本人の子供たちが親より大きいことは日ごろ実感するけれど、これも幼少期に抗生物質によって細菌叢が攪乱を受けたことの結果である可能性すらあるそうだ。まぁこれについては良いか悪いかは不明。ただ関連がありそうらしい。まじかー!と思った。最近の子供たち足長いし、背も高いもん。なんでだろうと思っていた。まぁ他にも複数の原因があるのかもしれないけど。

 

つくづく。人間はこの世界のことをほんの一部しか知らないんだなぁと思う。宇宙のことも深海のことも知らないけど、人間のこの日々接している身の回りの世界のことも知らない。知らないことに対しては存在にすら気づかないからしょうがないのだけど、知ってるものを過信せず、知らないものがあるかもしれないって思うことは本当に重要だと思う。

 

そして本当にこの自然の世界ってよくできている。すっごく複雑に影響し合って、絶妙のバランスでその瞬間の状況を保っている。「生物と無生物のあいだ」を読んだときも思い知ったけど自然界って常にたくさんの生き物のせめぎ合いで刻一刻と状況を変えながら、常に壊して作ってという作業を全瞬間で続けることで、たまたまその瞬間にその姿を現しているんだなぁと今回も改めて思った。それは人間が理解できる情報量をはるかにこえた複雑さなんだと思う。

 

でも個人的には、それでも人間も動物だから、学術的にこのことを解明できなくても、身体的には少し理解できるんじゃないかと思う。これからはもっとそういう興味と感覚を持って、物を食べたり、自然の中で過ごしたりしてみたいと思った。そして細菌のことをもっと知りたいと思った。こういう本を読んで知っていく中で、自分の中で世界に対する見方が変わっていくのは本当に面白い。

 

あー不思議だなぁ。今こうしている私の表面にもおなかの中にもたくさんの細菌がせめぎ合いなが生きているってこと。過剰に除菌ばっかりするのは良くないね。彼らのおかげで生きているのだから。そのことをもっと自覚して、良い関係を築いていきたいなぁ。いや、そうさせてください!

 

ちなみにこれ、以前よんだ本の記事。

m-patty.hatenablog.com